幾度の夜を俟たれども-幽霊船の行方後日談-後編
2008年9月6日運び屋の男に頼み込まれ
幽霊船事件の真相を探るべく 酒場に居る祈祷師の元へ訪れた
この祈祷師には数日前の調査でも世話になった
見た目は子供にしか見えないが 世界を渡り歩き 占いを続けているらしい
今回は幽霊船から逃れるために気性の荒い男どもばかりの海賊船に乗り込み ここまで来たという
「こんにちわ。数日前はお世話になりました」
祈祷師の少女はこちらに気づいたようで
「またお客さんかい? 売れっ子のあたしは最近、目が回るほどの忙しさだよ。」
そうだろうと思う
港が北大西洋の異変の噂でもちきりになると同時に
街中では凄腕の占い師が来た と賑わっていたからだ
「まぁ、どんな依頼か言ってごらん。このあたしの手にかかれば何でもお見通しさ」
彼女は自信満々に言う
「先日の北大西洋の件なのですが」
「うむ、アゾレスあたりに出没した幽霊船についてだね」
少女が返してきた言葉に目を丸くした
幽霊船だと何故知っているのかと・・・
こちらの表情を察したのか
「何度も言うけど あたしには何でもお見通しさ。それに実際に襲われて、その船を目の当たりにしたんだ。そこの腰抜け海賊の船で何とか生き延びれたけどね」
そう言いながら 少女の目線が近くで酒を煽っていた男に向けられる
「うぅ・・・」
男は泣き上戸なのか 身体を震わせながら泣いていた
ふん!と鼻を鳴らしながら少女は再びこちらに視線を戻す
「そうそう、みる前に・・」
「フルーツの盛り合わせですね」
予想済みだと言わんばかりにさっと報酬を差し出す
少女は一瞬驚きの表情を浮かべたが すぐににやりと笑みを浮かべる
「ほほう・・・最後まで言えなかったけど・・・みる前に手数料として、フルーツの盛り合わせ2個をあたしに献上するように」
「く・・・前は1個だったはずでは」
「売れっ子の手数料は市場の需要に合わせて変動するもんなんだよ。あまり小さいことは気にしないようにッ!」
ただの負けず嫌いな気もするが・・・
払わないわけにもいかず 近くの露店で盛り合わせをもう1皿購入し 少女に手渡す
「よし ではこれから祈祷を行うよ。気を一点に集中するから静かにね…。はぁーーッ!!」
少女が目を瞑り祈りだす
「……ふむ、みえてきたよ。その幽霊船を操っていた男、過去に何かあったようだね…。真夜中に錯乱しながら、この街から出て行く姿がみえるよ、ウウッ…」
何か禍々しいものを感じとったのか
彼女は酷く汗をかいていた
「男が始終、口にする女の名は、オーレリア…。この男女に何かあったんだろうかね。この2つの魂は未だに休まることができず、この近辺を漂っているのを感じる…」
「・・・」
古びた指輪
海に出た男
オーレリア
少女は瞳をあけると
「さぁ、今回はこれで終りだ。オポルトの埠頭に佇む老人が詳しいことを知っているようだから直接聞いてみるといい」
酒場を後にして リスボンを出航する為、港に向かう
道中
「船長 その指輪はオーレリアの・・・」
琥鉄が何か話が繋がったのか そう呟く
「ここで立ち止まるわけにもいかないみたいだ」
-----
オポルトへは1日で到着することができた
街へ降り立ち埠頭へ向かう
埠頭の先には ただ座り込み 海を見つめる老人が居た
話しかけることなく彼の横に立ち 同じように海を見つめる
波は穏やかに一定のリズムで音を刻んでいた
老人がふと口を開く
「……航海者さん、とある男女の悲しい話をしよう。立ってないで横に座るといい」
言われるがまま 彼の横に座る
「・・・」
「この街に生真面目で情熱的な男、ジョルジェという若き船長がいた。彼は異国への憧れから、家業を継がず大海原へと航海に出ていたそうだ」
ジョルジェ
「ジョルジェにはリスボンに住む清楚で美しいオーレリアという婚約者がいた。2人の仲は誰が見ても微笑ましいほどのものだった。ジョルジェはオーレリアとの結婚資金を集めるために日々奮闘していた」
オーレリア
老人は声のトーンを落とす
「そんな絵に描いたような2人の幸せは一瞬にして崩れ去ってしまう…。ジョルジェの長きに渡る航海中に、オーレリアの姿を一目見たリスボンの名の知れた貴族が、彼女の美しい姿に心を奪われてしまう…」
「オーレリアとの結婚を申し出た貴族に、オーレリアの父は、婚約中であることを口にせず、結婚の申し出を受け入れてしまう。オーレリアはどうすることもできず、ついに強制的に式を挙げられてしまったんだ」
「オーレリアは貴族と結婚したものの、彼との贅沢な生活を拒み続けた。幾つの月日が過ぎただろうか。ついに貴族は腹を立て、とうとうオーレリアを牢獄に幽閉してしまう…。幽閉されたオーレリアは、その後も貴族を拒み続け、パンも水も一切口にせず、自ら命を絶った……」
「ジョルジェは遠方の航海から帰国後に、オーレリアが貴族と結婚した事実を知る。最期までジョルジェを想い命を絶ったことも知らずに、幸せに貴族と暮らしているという街人の噂を信じてしまい我を失ってしまう。そして、終りのない航海へと旅立ってしまった…」
「随分昔の話だが…北大西洋で不審船が確認された日。それがジョルジェとオーレリアの結婚を約束した日だった」
後ろで話を聞いていた邑雲が急に声をあげる
「じいさん!ちょっとまってくれ!何で街のヤツはオーレリアが無理矢理結婚させられたってジョルジェに教えてやらなかったんだよ!」
老人は首を横に振り
「教えなかったんじゃない。教えれなかったんだ。事実を伝え、ジョルジェが貴族に刃向かえば、教えた自分もただでは済まない。誰も…わしもそれに逆らえなかった…」
邑雲は治まらない様子で
「そんな事が・・・許されるのかよ!!」
「邑雲。気持ちは分かるが・・・落ち着け」
琥鉄がそれを制す
ジョルジェ
オーレリア
そして指輪
もしかしてと思い
「この指輪に何か覚えはありませんか?」
と古びた指輪を老人に手渡す
その指輪を見て老人の表情が一変した
「なんと! その指輪をどうしてお前さんが持っているんだ?」
老人にこれまでの事を話す
「ふむ…それは2人が婚約した記念日にジョルジェがオーレリアにあげた指輪…。オーレリアが幽閉される前に貴族に奪われてしまった物なんじゃよ…」
やはり、オーレリアの指輪か・・・
老人は指輪をこちらに返し
「航海者さん、悪いんじゃが、祈祷師さんに相談してその指輪は本人に返してやってくれないかのぅ? 祈祷師さんの言うように、2人の魂がお互い一緒に眠りにつくことができないのはその指輪のせいかもしれん…」
「オーレリアは・・・幽閉されてからも毎晩ジョルジェの航海の無事を祈り続けたそうだ。いつかジョルジェが帰ってきて、自分と結婚する日を夢見て・・・」
老人の頼みを聞き入れ
再びリスボンへ戻り 祈祷師にみてもらう
彼女は人使いが荒いだのと不満を漏らしながらも 指輪を手に取り 祈り始める
「ふむ、指輪があたしに語ってくる。女が泣いている。ウゥ…かなり強烈な想いだね…。この指輪は私の物だから、早く返してほしいと…。今もなお彷徨い続け指輪を探していると…」
「男の叫びも聞こえてくるよ…。オーレリアを疑ってしまい申し訳ないと、そして今でも変わらず愛していると…。毎年2人の記念日に渡していたバラの花束…」
そこで占いが終わったのか 少女が目を開け 指輪をこちらに返す
「この指輪はできるだけ早く持ち主のところへ返したほうがいい。それにあんたが持っていては、命の保障はできないよ?」
「この指輪にはそれだけ大きな・・・」
少女は頷きながら
「この街の高台でその女の霊気を感じる…。早く持って行ってあげな。あっ! その前にひとつ。報われない男の霊のために、バラの花束を一緒にお供えしてあげな」
いよいよオーレリアとご対面か・・・
広場の花売りにバラの花束を注文し
花束と指輪を持って高台へ向かう
そこには一人の女性が立っていた
どこか禍々しく・・・物悲しい雰囲気がする
あまり幽霊の類は信じたくは無いが…息を呑み
「オーレリア?」
そう 既に亡き人の名を呼ぶ
すると女性はこちらに振り向き
「…ゆ、びわ…。私の指輪…は、どこなの……」
そう弱々しく口にする 涙を流していた
彼女に指輪とバラの花束を手渡し
「ジョルジェは・・・あなたの事を疑ってすまない・・・今でも愛している・・・・と」
そう言葉をかける
オーレリアは指輪と花束を手に取り
「…ゆ、びわ…に、バラの花束…。私たちの、思い出の指輪…なのね。ずっと探していた……ありが…とう…」
「ジョルジェ…。私は…、何があろうとも、あなたの妻です…何があろうとも…」
そう言うと ふっと彼女から感じていた雰囲気が消える
その女性は驚いたように辺りを見回し
「あれ? 今までこんなところで何をしていたのかしら…? あなたご存知ない?」
そう聞かれるものの 幽霊が憑いていましたとは言えず
「いえ、今日は風が強いです。海を見られるなら気をつけたほうが良いですよ」
と言い残し その場を後にする
さて、調査もこれで充分だろうと
運び屋の男に報告を行う
再び目を輝かせながら彼は話を聞いていたが
「まぁ、その恋人たちも可哀想だが、最も救われないのはその貴族かもな…。その後の人生がいかに侘しいものか…」
そう悲しそうにつぶやいた
どうだろうか・・・
命を落としたのはオーレリアやジョルジェだけではない
怨念で襲われ 藻屑となった航海者達もまた渦中に飲み込まれてしまったのだから
それは、侘しさなどで覆されるものではない
そう思ったが
彼はこちらの手をとり
「ありがとうよ!これで仕事に専念ができるぜ!」と満足そうだったので それ以上関わらない事にした
さて・・・
それからリスボンで一晩を過ごし
出港準備も整え 再び海へ
随分と予定が遅れたが・・・まぁ、そんな事はよくある
航海とはそんなものだ
リスボンの街から15日目の夜 北大西洋
邑雲が船員に大声で指示を出す
「よし!波も落ち着いてるな!船を降ろせー!」
自分の船から小さな船が降ろされる
その船に人は乗っていない
ただ、バラの花束と少しばかりの金貨だけを乗せ波に浮かばせる
邑雲が「へっ」と笑いながら
「なぁ船長?こんだけ広い海だとジョルジェもオーレリアも飽きねぇよな」
「そうだな・・・」
少しずつ遠ざかってゆく小船を見つめ
「二人の航海が如何なる時が来ようと永劫のものとなります様」
そうつぶやき空を見上げる
星々はまるで何かを祝福する様に 輝きに満ち溢れていた
幽霊船事件の真相を探るべく 酒場に居る祈祷師の元へ訪れた
この祈祷師には数日前の調査でも世話になった
見た目は子供にしか見えないが 世界を渡り歩き 占いを続けているらしい
今回は幽霊船から逃れるために気性の荒い男どもばかりの海賊船に乗り込み ここまで来たという
「こんにちわ。数日前はお世話になりました」
祈祷師の少女はこちらに気づいたようで
「またお客さんかい? 売れっ子のあたしは最近、目が回るほどの忙しさだよ。」
そうだろうと思う
港が北大西洋の異変の噂でもちきりになると同時に
街中では凄腕の占い師が来た と賑わっていたからだ
「まぁ、どんな依頼か言ってごらん。このあたしの手にかかれば何でもお見通しさ」
彼女は自信満々に言う
「先日の北大西洋の件なのですが」
「うむ、アゾレスあたりに出没した幽霊船についてだね」
少女が返してきた言葉に目を丸くした
幽霊船だと何故知っているのかと・・・
こちらの表情を察したのか
「何度も言うけど あたしには何でもお見通しさ。それに実際に襲われて、その船を目の当たりにしたんだ。そこの腰抜け海賊の船で何とか生き延びれたけどね」
そう言いながら 少女の目線が近くで酒を煽っていた男に向けられる
「うぅ・・・」
男は泣き上戸なのか 身体を震わせながら泣いていた
ふん!と鼻を鳴らしながら少女は再びこちらに視線を戻す
「そうそう、みる前に・・」
「フルーツの盛り合わせですね」
予想済みだと言わんばかりにさっと報酬を差し出す
少女は一瞬驚きの表情を浮かべたが すぐににやりと笑みを浮かべる
「ほほう・・・最後まで言えなかったけど・・・みる前に手数料として、フルーツの盛り合わせ2個をあたしに献上するように」
「く・・・前は1個だったはずでは」
「売れっ子の手数料は市場の需要に合わせて変動するもんなんだよ。あまり小さいことは気にしないようにッ!」
ただの負けず嫌いな気もするが・・・
払わないわけにもいかず 近くの露店で盛り合わせをもう1皿購入し 少女に手渡す
「よし ではこれから祈祷を行うよ。気を一点に集中するから静かにね…。はぁーーッ!!」
少女が目を瞑り祈りだす
「……ふむ、みえてきたよ。その幽霊船を操っていた男、過去に何かあったようだね…。真夜中に錯乱しながら、この街から出て行く姿がみえるよ、ウウッ…」
何か禍々しいものを感じとったのか
彼女は酷く汗をかいていた
「男が始終、口にする女の名は、オーレリア…。この男女に何かあったんだろうかね。この2つの魂は未だに休まることができず、この近辺を漂っているのを感じる…」
「・・・」
古びた指輪
海に出た男
オーレリア
少女は瞳をあけると
「さぁ、今回はこれで終りだ。オポルトの埠頭に佇む老人が詳しいことを知っているようだから直接聞いてみるといい」
酒場を後にして リスボンを出航する為、港に向かう
道中
「船長 その指輪はオーレリアの・・・」
琥鉄が何か話が繋がったのか そう呟く
「ここで立ち止まるわけにもいかないみたいだ」
-----
オポルトへは1日で到着することができた
街へ降り立ち埠頭へ向かう
埠頭の先には ただ座り込み 海を見つめる老人が居た
話しかけることなく彼の横に立ち 同じように海を見つめる
波は穏やかに一定のリズムで音を刻んでいた
老人がふと口を開く
「……航海者さん、とある男女の悲しい話をしよう。立ってないで横に座るといい」
言われるがまま 彼の横に座る
「・・・」
「この街に生真面目で情熱的な男、ジョルジェという若き船長がいた。彼は異国への憧れから、家業を継がず大海原へと航海に出ていたそうだ」
ジョルジェ
「ジョルジェにはリスボンに住む清楚で美しいオーレリアという婚約者がいた。2人の仲は誰が見ても微笑ましいほどのものだった。ジョルジェはオーレリアとの結婚資金を集めるために日々奮闘していた」
オーレリア
老人は声のトーンを落とす
「そんな絵に描いたような2人の幸せは一瞬にして崩れ去ってしまう…。ジョルジェの長きに渡る航海中に、オーレリアの姿を一目見たリスボンの名の知れた貴族が、彼女の美しい姿に心を奪われてしまう…」
「オーレリアとの結婚を申し出た貴族に、オーレリアの父は、婚約中であることを口にせず、結婚の申し出を受け入れてしまう。オーレリアはどうすることもできず、ついに強制的に式を挙げられてしまったんだ」
「オーレリアは貴族と結婚したものの、彼との贅沢な生活を拒み続けた。幾つの月日が過ぎただろうか。ついに貴族は腹を立て、とうとうオーレリアを牢獄に幽閉してしまう…。幽閉されたオーレリアは、その後も貴族を拒み続け、パンも水も一切口にせず、自ら命を絶った……」
「ジョルジェは遠方の航海から帰国後に、オーレリアが貴族と結婚した事実を知る。最期までジョルジェを想い命を絶ったことも知らずに、幸せに貴族と暮らしているという街人の噂を信じてしまい我を失ってしまう。そして、終りのない航海へと旅立ってしまった…」
「随分昔の話だが…北大西洋で不審船が確認された日。それがジョルジェとオーレリアの結婚を約束した日だった」
後ろで話を聞いていた邑雲が急に声をあげる
「じいさん!ちょっとまってくれ!何で街のヤツはオーレリアが無理矢理結婚させられたってジョルジェに教えてやらなかったんだよ!」
老人は首を横に振り
「教えなかったんじゃない。教えれなかったんだ。事実を伝え、ジョルジェが貴族に刃向かえば、教えた自分もただでは済まない。誰も…わしもそれに逆らえなかった…」
邑雲は治まらない様子で
「そんな事が・・・許されるのかよ!!」
「邑雲。気持ちは分かるが・・・落ち着け」
琥鉄がそれを制す
ジョルジェ
オーレリア
そして指輪
もしかしてと思い
「この指輪に何か覚えはありませんか?」
と古びた指輪を老人に手渡す
その指輪を見て老人の表情が一変した
「なんと! その指輪をどうしてお前さんが持っているんだ?」
老人にこれまでの事を話す
「ふむ…それは2人が婚約した記念日にジョルジェがオーレリアにあげた指輪…。オーレリアが幽閉される前に貴族に奪われてしまった物なんじゃよ…」
やはり、オーレリアの指輪か・・・
老人は指輪をこちらに返し
「航海者さん、悪いんじゃが、祈祷師さんに相談してその指輪は本人に返してやってくれないかのぅ? 祈祷師さんの言うように、2人の魂がお互い一緒に眠りにつくことができないのはその指輪のせいかもしれん…」
「オーレリアは・・・幽閉されてからも毎晩ジョルジェの航海の無事を祈り続けたそうだ。いつかジョルジェが帰ってきて、自分と結婚する日を夢見て・・・」
老人の頼みを聞き入れ
再びリスボンへ戻り 祈祷師にみてもらう
彼女は人使いが荒いだのと不満を漏らしながらも 指輪を手に取り 祈り始める
「ふむ、指輪があたしに語ってくる。女が泣いている。ウゥ…かなり強烈な想いだね…。この指輪は私の物だから、早く返してほしいと…。今もなお彷徨い続け指輪を探していると…」
「男の叫びも聞こえてくるよ…。オーレリアを疑ってしまい申し訳ないと、そして今でも変わらず愛していると…。毎年2人の記念日に渡していたバラの花束…」
そこで占いが終わったのか 少女が目を開け 指輪をこちらに返す
「この指輪はできるだけ早く持ち主のところへ返したほうがいい。それにあんたが持っていては、命の保障はできないよ?」
「この指輪にはそれだけ大きな・・・」
少女は頷きながら
「この街の高台でその女の霊気を感じる…。早く持って行ってあげな。あっ! その前にひとつ。報われない男の霊のために、バラの花束を一緒にお供えしてあげな」
いよいよオーレリアとご対面か・・・
広場の花売りにバラの花束を注文し
花束と指輪を持って高台へ向かう
そこには一人の女性が立っていた
どこか禍々しく・・・物悲しい雰囲気がする
あまり幽霊の類は信じたくは無いが…息を呑み
「オーレリア?」
そう 既に亡き人の名を呼ぶ
すると女性はこちらに振り向き
「…ゆ、びわ…。私の指輪…は、どこなの……」
そう弱々しく口にする 涙を流していた
彼女に指輪とバラの花束を手渡し
「ジョルジェは・・・あなたの事を疑ってすまない・・・今でも愛している・・・・と」
そう言葉をかける
オーレリアは指輪と花束を手に取り
「…ゆ、びわ…に、バラの花束…。私たちの、思い出の指輪…なのね。ずっと探していた……ありが…とう…」
「ジョルジェ…。私は…、何があろうとも、あなたの妻です…何があろうとも…」
そう言うと ふっと彼女から感じていた雰囲気が消える
その女性は驚いたように辺りを見回し
「あれ? 今までこんなところで何をしていたのかしら…? あなたご存知ない?」
そう聞かれるものの 幽霊が憑いていましたとは言えず
「いえ、今日は風が強いです。海を見られるなら気をつけたほうが良いですよ」
と言い残し その場を後にする
さて、調査もこれで充分だろうと
運び屋の男に報告を行う
再び目を輝かせながら彼は話を聞いていたが
「まぁ、その恋人たちも可哀想だが、最も救われないのはその貴族かもな…。その後の人生がいかに侘しいものか…」
そう悲しそうにつぶやいた
どうだろうか・・・
命を落としたのはオーレリアやジョルジェだけではない
怨念で襲われ 藻屑となった航海者達もまた渦中に飲み込まれてしまったのだから
それは、侘しさなどで覆されるものではない
そう思ったが
彼はこちらの手をとり
「ありがとうよ!これで仕事に専念ができるぜ!」と満足そうだったので それ以上関わらない事にした
さて・・・
それからリスボンで一晩を過ごし
出港準備も整え 再び海へ
随分と予定が遅れたが・・・まぁ、そんな事はよくある
航海とはそんなものだ
リスボンの街から15日目の夜 北大西洋
邑雲が船員に大声で指示を出す
「よし!波も落ち着いてるな!船を降ろせー!」
自分の船から小さな船が降ろされる
その船に人は乗っていない
ただ、バラの花束と少しばかりの金貨だけを乗せ波に浮かばせる
邑雲が「へっ」と笑いながら
「なぁ船長?こんだけ広い海だとジョルジェもオーレリアも飽きねぇよな」
「そうだな・・・」
少しずつ遠ざかってゆく小船を見つめ
「二人の航海が如何なる時が来ようと永劫のものとなります様」
そうつぶやき空を見上げる
星々はまるで何かを祝福する様に 輝きに満ち溢れていた
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